「勃起」はなぜ起こる?

「勃起」というむずかしい言葉は、男性の陰茎(ペニス)が堅く膨張した状態をいっている。男性のセックスには勃起、挿入、射精という三つの条件が必要であり、このうち勃起なしにはセックスは不可能である。

女性は膣があれば、常に性交が可能であるが、男性は陰茎の勃起なしには性交は不可能であり、それほど男性にとっては重要な要素である。

日本の法律では、女性で膣がないと離婚の条件になるが、男性の場合は勃起しなくても、これまでは離婚されなかった。しかし、男女同権の世の中になってくると、常に勃起しない男性は家庭裁判所で審査され、これからは離婚の理由になる時代がくるかもしれない。

勃起は英語でもドイツ語でもエレクション(エレクチオン、Erection :Erektion)で、日本では常用漢字表にはない、「勃」というむずかしい漢字が用いられている。

この勃起という語を辞書でみると、「陰茎が起こり立つこと」とある。「勃起」という言葉そのものは、中国からきたものと思われるが、現在の中国では勃起という語は用いられていない。最近の中国の医語辞典である「英漢医学辞典」を見ると、中国ではエレクチオンのことを「堅立」といっている。この方がわかりやすく合理的のような気がする。

わが国でドイツ語の医学用語「Erektion」を「勃起」と訳したのは、漢学の素養が深かった明治の文豪にして医者であった森鷗外であるといわれているが、真偽のほどはわからない。

二つの勃起

さて陰茎の勃起には、「心理的勃起」または「イメージ勃起」と、「反射性勃起」の二通りの勃起がある。もっともこれは人間の陰茎だけで、動物の勃起は「反射性勃起」だけである。

「イメージ勃起」または「心理的勃起」というのは、脳のなかで女性のヌードをイメージしたり、セックス場面を想像しただけで、陰茎が勃起する現象をいう。したがって、これは男性ホルモンの活性が高い、若い男性に多いのは当然だが、脳の機能が十分な男性なら年をとっても起こる。しかし人間以外の動物では、大脳皮質の発達が極めて小さいので、たとえ発情期の雄犬に雌犬の性器の写真を見せても、雄犬の勃起は起こらない。

また「反射性勃起」というのは、陰茎を摩擦したり、膀胱に小便がたまって膀胱が刺激されたり、診察で前立腺を刺激したりした場合に起こる勃起のことである。この反射性勃起は人間ばかりでなく、他の動物、たとえば犬の陰茎を摩擦しても起こる。

陰茎の勃起はどうして起こるのか、そのメカニズムはまだ詳細には明らかになっていない。

陰茎の勃起不全を「インポテンス」というが、いまこのインポテンスの研究は世界中で行われており、世界中に「インポテンス学会」というものができている。「国際インポテンス学会」は一九八四年、パリで第一回が開催されてから二年ごとに開催され、陰茎の勃起に関する研究発表が盛んに行われている。

わが国でも世界に先がけて、一九七八年に「日本インポテンス研究会」というものが設立され、インポテンスの専門誌である機関紙「Impotence」も発刊以来四年目を迎えている。このように世界中で勃起の研究が盛んになっているのは、急速な高齢化社会に対応するためである (一九九四年から日本インポテンス学会は「日本性機能学会」と改められた)。

しかしわが国では、いまだ「月経の終わりはセックスの終わり」とか「年と共にホルモンは涸れてなくなる」といった古い考えを持っている人が多く、またセックスは命にかかわらないためか、医療の面でもすっかり外国におくれをとっている。インポテンスの治療に、いまだに医療保険が使えないのも、そのためである。

いまや人生80年の時代、性と生殖を混同しているわが国では、勃起の研究こそ急務であろう。

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